の  す  ぐ  後
 
後編

ゆっくりと上半身を起こすと、精液とゼリーですごい有様になった下半身が視界に飛びこんで、そのはしたなさに思わず羞恥を覚える。身体だけではない。畳までもがうっすらと湿っていて、なんだかえらく気恥ずかしい。

「拭いてやろうか?」

やけにすっきりとした顔立ちでニヤニヤとした桂木が、悪戯っぽい仕草で部屋の隅に置いてあったティッシュボックスを片手で上げた。

「結構ですよ、自分でやれます」

田嶋は素っ気無く返す。

初めて知った処女でもあるまいし……田嶋は放られたティッシュで身体を拭うと、畳の方も丁寧に擦った。しかしいきなり猛省だ。久しぶりとはいえ、あんな恥ずかしげもなく声を上げて……。

(近所迷惑もいいとこだ)

実際そういう問題ではない。もう深夜も午前3時を回っているからぐっすり眠り込んでいる人も多いかもしれなかったが、もし起きている隣人がいたとすれば、猫の発情期でもあるまいし、誤魔化されてはくれないだろうな、と田嶋は思った。まあ誘ったのは自分の方だから大きなことはたいして言えない。

立ち上がって乱れた衣服を適当に整えると、田嶋は押入れの戸を開けてその奥にある整理ボックスからバスタオルと一通りの着替えを取り出した。ふと気配に気づいて振りかえると、もう、すぐ後ろに桂木が立っていて、田嶋を少し驚かせる。

「あ……」

小さな声を発して、後ろ手で田嶋は押入れを閉めた。向かい合うような形になった田嶋はいつもの乏しい表情で、桂木の方を見つめる。別段微笑まれたわけでもないのにドキッとするのは田嶋のこの綺麗な顔立ちのせいなんだろうな、と桂木は思った。いや、乱れた襟もとの隙間から見え隠れする、鎖骨のせいもあるかもしれない。

「着替え、俺のでいいですよね」
「うん」
「……ちょっと……」

あからさまに迷惑そうな面持ちをして、田嶋がボタンを外し始めた桂木の両手を止めた。

「何やってんですか」
「脱がしっこ」
「は?」

眉間にしわを寄せた田嶋が、呆れたような表情を見せた。

「脱がしっこって……」
「一緒に風呂入ろうって」

そう返す桂木の指が同時進行で、止めようとした田嶋の手なんかお構いなしに器用にボタンをどんどん外していく。上から5つ目のボタンに手を掛けた時、桂木の手が動きを止めて田嶋の唇に軽くそっと口付けた。ただ触れるだけの接吻なのに、なんでこんなに感じるんだろう。

田嶋は少し考えたような顔をして、ゆっくりと口を開いた。

「ねえ」
「んー?」
「風呂場、狭いんですよ」
「知ってる」
「声も、響くんですよ」
「そうだろうな」
「ですから、あの……」
「しねぇよ、ばか」

苦笑を浮かべてそう言った桂木の顔が瞬時に近づいて、再び田嶋の唇を奪う。触れただけの唇が離れて、反射的に閉じられたその瞳がゆっくり開くと、田嶋はその目で桂木の顔をじっと見つめた。5センチにも満たない至近距離で心臓が大きな音を立てる。

耳に届くか届かないかの小さな、パサッと畳に衣類の落ちる音と同時に、田嶋の両手が桂木の髪を掻き乱した。いきなり口内に舌を突っ込まれて少し驚いたような表情を浮かべた桂木は、その意味を理解したかのようにゆっくりとした動作で目を閉じる。今さっきしたばかりの触れるだけの口付けと違って、惜しむように唇を離すと桂木はまるでその行為を咎めるような視線でこう言った。

「……アホ。人が折角自制しようとしたのに、出来なくなっちまうだろ……って、おい」

桂木が下を見る。

既に桂木のシャツのボタンを外し始めた田嶋の手が止まって、耳元に口を寄せると、田嶋は囁きかけるように呟いた。

「口でしてあげますよ」

 

*    *    *    *    *

 

「う――っ、気持ちいい――― !」

そう言って桂木は上げた両腕を降ろして浴槽の中に見を沈めた。風呂が馳走とはよく言ったものだと思う。ひと運動した後で、さほど冷えてもなかったが、11月も下旬の寒さに変わりはない。

「湯加減、どうですか」

そう言いながら田嶋が洗ったばかりの濡れた髪で、浴槽のヘリに肘をついた。

蓋を閉めておいたとはいえ、夏に比べれば湯の冷める時間はかなり早い。浴槽に湯を張ってから今現在に至るまで、一体どれだけ経っていると思うのか。

「ぬるいでしょう」
「悪かねぇよ」

桂木は笑った。だって気分は相当良い。それなのに、そんな桂木の言葉などさも聞こえてないという風に、田嶋は追い炊き用の栓をひねった。

「おお、追い炊きできるのか!」

桂木が感心したように無邪気に声を上げる。来月29歳にもなるというのに、まるで子供みたいだ、と田嶋は思った。

「ねえ、そろそろ出てきませんか」

ガス栓をさっきとは逆にひねって、浴槽のヘリに頬杖をついたままの田嶋が言った。

2Kである田嶋の部屋の浴室は狭い。昨今180を超える身長はさほど珍しくもなくなってきたが、180も178も、まだまだ大きい部類に入る。お互い細身ではあったけれども、どだい、この狭い浴室に男二人は無理なのだ。一緒に入るといったところで、一人が浴槽に、もう一人はタイルの足場で身体をキレイにするというスタイルが必然的に決まっている。

最初に洗髪なんかをサッサと済ませた桂木は思い当たったかのようにこう言った。

「あん?ああ、交代ね」
「いえ、そうじゃなくて……」

田嶋は浴槽から出ようとヘリに掛けられた桂木の手に、自身の手を重ねて耳元に口を寄せた。

「口で……」

田嶋のその台詞に思わず桂木の動きが止まる。ひどく意外そうな顔をして、桂木は田嶋と視線を合わせた。

「え?何……あれ、本気だったの」
「俺が冗談言ったこと、ありますか」

おお、あるとも!タチの悪い冗談を何度かな!!、と桂木は思ったが敢えて黙っておいた。大体、今まで田嶋の言った冗談ときたら、本心を濁すようなところで使われる、到底冗談とは思えないシロモノばかりだったのだ。尤もあれを冗談というなら今のこの関係も冗談なのだと払拭されてしまいそうで、少し怖い。

「ない」

気を取りなおして微笑を浮かべると、桂木は濡れた手を田嶋の首に掛けて顔を自分の口元へ引き寄せた。開けられた口内に舌を入れて味わうようにゆっくりかき回すと、田嶋の口から熱い吐息が洩れる。唇が離れるとお互いの目が合って、田嶋の口角が僅かに上がった。

「早く……」

ねだるように目を細めた田嶋の仕草はかなりな糖度で扇情的だ。桂木がニヤッと笑いを浮かべて浴槽から身体を上げると、その頬に田嶋の形の良い手が伸びて、軽く唇を奪う。田嶋の形の良い情熱的な唇が耳に、首に鎖骨に、上から下へと順を追って転々と移っていく。這わせた舌が腹部に差しかかったその時、田嶋は視線を上げて桂木を捕らえると口元をペロリと舐めた。ゾクゾクする。

田嶋は何も言わずに俯いて、もうすでに勃ち上がった桂木自身を右手で包むと、ゆっくりと目を閉じてその先端を舌先で愛撫し始めた。口先に軽く含むと、透明な欲望が先から滲んで舌先に纏わりつく。少し入れたばかりの先端を舌で弾くと桂木の身体が小さくビクッと揺れた。

「……っ」

口から洩れた声をきっかけに、田嶋は一気に口の奥までそれを入れる。そして、そのまま上下に大きく口をスライドさせて、桂木は思わず息を呑んだ。

「……はっ……」

桂木は田嶋の頭に手を伸ばし、そのまま撫でて梳くように髪を軽く掻き乱す。口を大きく上下させながら、口内で舌を激しく動かされると男としてはかなりな具合で気持ち良い。桂木は浴槽のヘリに右足を乗せたまま、上から見下ろす格好でその田嶋のキレイな顔立ちを見つめた。

(ああ、くそ……)

めちゃくちゃ感じる。

気を抜けばすぐにもイッてしまいそうだ。桂木好みの愛撫やテクニックはもちろんだが、なんといってもその顔が!桂木の視覚をかなりな割合で興奮させる。汗と風呂の蒸気が交ざって、桂木の顎から雫が垂れた。

ふいに田嶋の口が咥えていた桂木自身から離れて、そのままゆっくりと反応を伺うように下へ下へと滑っていく。舌先が根元まで到達すると田嶋の唇が、その前にある二つの丸みを軽く吸った。

「んっ……!」

桂木は思わず声を洩らした。右手は桂木自身を扱きながら、何度もついばむようにその場所を刺激する。蒸気の雫が桂木の顎のラインにかけてポトポトと落ちて、田嶋の頬を数ヶ所濡らした。それでも行為に夢中になった田嶋には、そんな些細なことに気づきもしない。田嶋は大きく口を開けると、一気にそれを口内に含んだ。

「……ふ……っ」

桂木の身体がビクッと大きく揺れた。口内で転がすように舌を絡ませて、強く吸う。

「あ、あ……っ」

思ってもいなかったところの愛撫だけにかなり感じる。桂木は熱い吐息を洩らして、桂木は田嶋の顔を盗み見た。乱暴に掻き乱された田嶋の濡れた漆黒の髪が額に掛かって、桂木はその顔をにひどい欲情を覚える。その顔に自分だけの印をつけたい。

「……はっ……、たじ……」

声をかけると、田嶋の唇が睾丸から離れて再び桂木自身を口に入れた。右手を上下に動かしながら、舌を密接させて強く吸うと、その場所から激しい音が部屋に響く。薄っすらと目を開けて、もう少しでイキそうだ、と桂木は思った。

「…っ……なあ……」

絶え絶えな桂木の問いかけに、田嶋は行為自体はそのままで、少しだけ顔を上にあげる。桂木と目が合って、切なげな顔をした桂木が眉をひそめて囁くような小さい声でこう言った。

「めちゃめちゃ、気持ち、いいんだけど……もう、出そうだ……」

桂木は、若干上を向けた田嶋の輪郭を、右手のひらと指ででツーッとなぞるように滑らせる。

「なあ……かけていい……?」

田嶋は無表情にその言葉を聞いて、合わせていた目をゆっくり閉じた。どうやらお許しが出たらしい。桂木はペロっと上唇を舐めると、咥えられていたモノを引き抜いて、左手で田嶋の顎を捕らえた。目の前で自身に刺激を与えると、どうだ!もうすぐにでも射精してしまいそうな勢いだった。

「……あっ……出る……。……っ!!」

桂木が掠れた声でそう言うと、手のひらで包み込んだ指の隙間から、精液が勢いよく飛び出して数回に分けて田嶋の顔を絶えず濡らした。目を閉じたままの田嶋の、頬から顎にかけての輪郭を粘質な白い液体がツッ、と伝う。それらを顎を捕らえていた桂木の左手の親指が撫でて広げた。

 

 

「はぁ……、は……」

上半身を倒して、田嶋の肩に両腕を回すように顔をつけると、息を上げながら桂木はこう言った。

「あぁ、ちょっと……早かったかな。勿体無え……」

それを聞いた田嶋が苦笑する。

「早くイッてくれなきゃ、こっちが困ります。顎がだるい……」

田嶋が右手で顎に手を当てると、粘質な液体がドロッと指を汚した。その手を桂木がスッと掴んで、精液の付着した指の腹に舌を這わせる。

「あ……」

指の頂点にまで達すると、桂木はそのまま口の中にその指先を軽く含んだ。

「……っ」

指の腹を這う桂木の舌と、軽く立てられた歯の感触が、見えてもいないくせにありありと感じられて、まるで自身を愛撫されているかのような錯覚にも捕らわれる。田嶋は少し驚いたような表情で、真っ直ぐに桂木を見つめた。視線に気づいた桂木が、田嶋の指を咥えたままでニヤッと口角を上げる。その表情はひどく官能的で、セクシャルだ。

そしてそれはきっと10秒にも満たない短い時間だったのかもしれない。チュクッと音を立てて指先を開放すると、桂木は喉を鳴らして笑って言った。

「不味〜!ほら、早く顔洗えよ」

桂木は足元のタイルに置かれた白い洗面器を取り上げると、もうすっかりぬるくなった浴槽の湯を汲み上げて田嶋の前に差し出した。どうも、と、それだけ言って田嶋は洗面器を無造作に受け取る。そのギャップが。

だって桂木のその顔は、さっきの官能的な表情とは打って変わって、悪戯で、無邪気な少年そのものだったのだ。

 


back/top/next

 

SEO [PR] おまとめローン 冷え性対策 坂本龍馬 動画掲示板 レンタルサーバー SEO