の  す  ぐ  後
 
完結編

すっかりぬるくなった風呂から上がると、二人は小さな脱衣所で濡れた身体を拭き合った。バスタオルで水を含んだ髪を擦ると、程よく残った水分が微妙な程度で前髪を垂らして何だかずいぶん変わった印象を受ける。尤も可笑しいのはその頭で笑うと、ずいぶん幼く見える自分の上司に対してなのか、それとも、数時間前まで絶対ありえなかったこの光景に対してなのか……思わず田嶋の口から笑いがこぼれた。

「この笑顔が曲者なんだ」

そう言って桂木は触れるぐらいの密度でその口に唇を重ねる。至近距離に離れると、桂木はニヤッと、それこそクセのある笑顔を浮かべて、その桂木の目を真っ直ぐ見たままの田嶋がすました顔でこう返した。

「そりゃどうも。あんたのその顔もずいぶんな曲者ですよ」

田嶋の右手が桂木の頬をなぞるように伝うと、その手を掴んで桂木はまた軽く唇を奪う。何度目かの口付けを交わすと下腹部に何か固いものが当たって、田嶋は思わず下を見た。

「……まだ勃ちますか」
「人のこと言えるか」

そう言って笑うと、また桂木は唇を重ねる。触れるだけだった接吻が、徐々に熱を帯びて激しい口付けに変わり、桂木の右足が割るように田嶋の膝の間に滑りこむ。バランスの悪さに田嶋が後ずさると、そのまま、また一歩桂木の足が膝の間に割り込んで、ゆっくりとした速度で部屋の中を移動する。田嶋は細めた目をゆっくり閉じて、桂木の肩に両腕を回した。背中に手を回したまま口付けを交わし、それでも桂木はまるで誘導でもするかのように器用に身体の進路を変えて、まるでダンスを踊ってるみたいだ、と田嶋は思った。

田嶋の足が何歩目か後ずさった時、膝の後ろが行き止まり、その拍子に足から急に力が抜ける。田嶋は部屋の隅にあったパイプベッドに押し倒されるような形で仰向けになった。首を傾げた桂木の顔が視界に入る。その表情を覗きみるような視線で田嶋はふふっ、と笑みを洩らした。

「なんだよ、可笑しいか?」

口を尖らして桂木は言う。眼下で組み敷かれる形となった田嶋が、いいえ、別に可笑しかないですよ、と少し笑いを含んだ声で言った。

「流石は花丸一恋多き男だと思って。ずいぶんと手馴れていらっしゃる」
「モテない、無粋な男の方が実はいいとか」
「いえ、スマートな扱いは好きですよ」

そう言って田嶋は上半身をゆっくりと起こすと、両足を開いて挑発的な笑みを浮かべた。惜しみなく目の前で足を広げる恋人は、甘くて淫らで情熱的だ。

桂木はニヤッと笑ってベッドの縁に膝を乗せると、右手のひらで田嶋の顎に触れる。桂木の唇がその後を追うようにそっと近づくと、田嶋はゆっくりと目を閉じた。

首を左に傾けて、チュッと軽く楽しむように唇を吸う。少し離して反対側に角度を変えて今度は深く口付けると、桂木は二、三度顎を動かした。

「ん……」

少し開かれた口の間を通り、舌先で歯列をノックすると、まるで焦らすかのように田嶋の歯が桂木の舌に軽く歯を立てる。クチュ、と少し淫猥な音がして、その後を追うように田嶋の舌が桂木の口内に滑りこんだ。口内に入ってきた舌を軽く吸いながら、桂木の右の指先は田嶋の耳になぞるように触れる。田嶋は口を開けたまま小さな吐息を洩らした。

「ん……っ」

耳たぶを擦るように触れていた指が離れて、今度は口で愛撫してやる。形に沿って舌を滑らせると田嶋の肩がビクッと震えた。田嶋は耳が弱い。

「一臣……」

耳元で囁くように名前を呼ぶと、田嶋はさっきよりも大きな反応で身体を揺らした。耳を甘噛みしながら田嶋をベッドにゆっくり押し倒す。後を追うように桂木は自分の身体を覆い被せた。

ゴツッ。

「いてっ!」
「あれ…・・大丈夫ですか?」
「……狭……」

壁にぶつけた頭を擦りながら、桂木は少し不機嫌そうに呟いた。壁際に置かれたシンプルなパイプのシングルベッドだ。180もあるようなデカイ男が注意もなく不埒な行いをすれば横の壁にだって頭をぶつける。頭の下で、田嶋が薄い笑いを浮かべたまま、涼しい、すかした声でこう言った。

「すいませんね。あんたのとこと違って、男を連れこむ仕様にはなってないんです」
「連れこみ放題で悪かったな……」

ああ。本当にもう、イチイチイチイチ……そんな冷静に返してくるなよ……。

壊れたムードの修復は難しい。かと思っていたら田嶋の片手が下から伸びてきて桂木の首を強引に引きつけた。

「狭いベッドでするのも乙ですよ」

挑発するような田嶋の表情は、たまらなく、そそる。桂木はその顔を眼下に見下ろし、喉を一度ゴクッと鳴らした。2、3秒経ってニヤッと笑みを浮かべると今度は少し注意して、田嶋の身体に身を沈める。

「……あ……」

耳を舌で愛撫しながら、指先で乳首をつまむと、田嶋は小さい声を上げた。耳から首へゆっくりとなぞるように這った唇が急に音が出るほどに田嶋の首筋を強く吸う。田嶋は突然の行動に驚いたかのように、眉をひそめて左手の甲を口元に当てた。それでも小さな声は口から吐息のように流れでて、ひどく桂木の聴覚を刺激する。

「もっと聞かせろよ……」

口を覆った左手をどかすと、なんの前触れもなく、桂木は田嶋自身にいきなり触れた。

「あ……っ」

田嶋の身体が大きくビクッと震える。そのまま扱くように擦ると、自身の先から透明な先走りがみるまに田嶋の先端をベッタリと濡らした。

「あっ、あっ……はぁ…っ」

もう今日は3回目だというのに、下半身の昂ぶりは衰えることを知らない。桂木に、触れて欲しくてしかたがない。

頭の上で、田嶋の反応を見下ろした桂木の頬を引っ張り強引に口付けを求める。桂木はそれに応えるように激しく口内を吸った。口の端から唾液がこぼれれて、今はもうそれさえも更なる興奮を誘う行為に他ならない。田嶋は右手を伸ばすと、桂木自身にそっと触れた。そのまま手のひらで包んで上下に動かす。

「ん……っ」

桂木は小さな声を一つ洩らして、頭の下にある田嶋の顔を覗き見た。小さく息を乱した田嶋が薄っすらと潤んだ瞳で桂木を見ている。

「しゅにん……口で、して……」

田嶋が途切れ途切れに言葉を発すると、桂木はゆっくりと上半身を起こして田嶋の先に口付けた。

「ぁあ……」

こらえきれないため息が、田嶋の喉を突いて出る。先端をゆっくりと丁寧に舐めると、田嶋の蜜がその先から溢れた。軽く口に含んで、かさの裏を反応を確かめながら舌先でなぞると、ビクッと身体が小さくふるえる。そこ何度もなぞってやると田嶋は小さな吐息を何度も洩らした。

さっき、勢いのまま射精させてしまった愛撫より、今度は丁寧に、そしてもっともっと気持ち良くしてやりたい。桂木はゆっくりと口の奥へと田嶋を含んだ。

「あっ……」

唾液と先走りで濡れた音が部屋中に淫靡な音を響かせる。行為自体よりもひどく淫らだ。口を離すと、今度は手のひらで田嶋に触れる。手だけでも充分な反応を示した田嶋の顔に口付けると、桂木は枕の下から小さなボトルとコンドームを取り出した。

「はぁ、はぁ……っ。……それ、さっきの……、ですか……」

田嶋は熱に浮かされたような顔をして、桂木の方に視線を上げた。

「うん。風呂に入る前にこっちに置いといた」
「……用意周到って、いうか…っ、なんて、いうか……あんっ……!」

ベッタリとゼリーで濡らされた桂木の中指が田嶋の中へ一気に押し入る。奥まで入ったところでゆっくりと、指の先まで引きぬくと、田嶋の先端から先走りの雫がポタポタと落ちた。かなりゆっくりとしたスピードでその行為を繰返す。

「ぁあ……」

眉を顰めて、田嶋は気持ち良くてたまらない、と吐息を洩らした。ゆっくりとと抜き差ししていた指が段々と数とスピードを上げて行く。大きく開かされた足がビクビクと震えて田嶋は声を上げた。

「あっ、あっ、あっ……ダメ……っ!」

その声に、桂木はスピードを緩める。達しそうになった昂ぶりは少しの間延期されたかのような苦痛にも思えた。

「はぁっ、はぁっ……」

指を抜いて桂木は額に汗を浮かべた田嶋の耳元で囁く。

「なあ、後ろ向いて……」

かなり乱れた息遣いで、一呼吸置くようにゆっくりと目を閉じると、田嶋はのろのろと上半身を起こした。桂木はその顎に手を触れると、すかさず頬に口付ける。

田嶋がゆっくりと桂木に言われるままに後ろを向いて手をつくと、その後ろから桂木がゆっくりと先端を押し当てた。桂木自身に着けられたゴムの潤滑剤はもとより、ゼリーと指で慣らされた入り口はいとも容易に桂木を受け入れる。

「あ……んん、……っ!」

小さな悲鳴を上げて、シーツを握った田嶋の両手はその衝撃に白くなった。指とはまた違う異物感。桂木自身を全て受け入れると、頭をシーツにつけて次の衝撃を田嶋は待った。

「動くぞ……」

囁くような桂木のその声に、田嶋の心拍数が上がる。キシキシッ、とベッドの軋む音が田嶋の耳を刺激した。程よく濡れたその場所は桂木の動きとともに淫靡な音を立てて、背後から伸ばされた右手のひらが滑るように田嶋に触れる。

「あ……っ」

田嶋が思わず声を上げるとその瞬間入り口がぎゅっと締めつけられて、桂木自身も小さな声を上げた。

「はぁ、は……すげぇ、気持ち良い……」

気を抜いたらすぐにでもイッちまいそうだ。ゴム着けてるし、もう3回目なんだけど……、と、桂木は心の中で苦笑した。それでも田嶋の乱れる様をもっともっと見てみたい、と桂木はスピードを上げる。

「あっ、あっ、はぁ……っ」

開いた田嶋の口から、唾液がこぼれてシーツを濡らした。背後から勢い良く突き立てられてもう何も考えられなくなってきたのだ。

「しゅに……俺、もう……っ」

田嶋の膝がガタガタ震えた。

「ん……っ、もう、ちょっと……っ」
「あっ、あっ、は…っん……っ!」

田嶋の先からまるで水のようにポタポタと先走りがこぼれる。

「あ、ああ……っ、もう出…………ッ!!」

ドクン!と心臓が脈打って、田嶋は桂木の手の中でそのまま射精した。その後を追うように、桂木も田嶋の中に欲望を発射する。

「はぁ、はぁ……っ」
「はぁ、は……田嶋…、ティッシュ……」

田嶋は手を伸ばして、ベッドのすぐ下に置いてあったティッシュボックスを桂木に乱暴に手渡した。疲れてものも言えやしない。

そんな恋人を他所に桂木は田嶋が右手に出した精液をティッシュで拭って、その後ゆっくりと自身を引きぬく。手馴れた動作でゴムを外した。ふっと視線を下に移すと、汗だくになって、ひどく気だるげな表情で桂木を見ている田嶋に気づく。俺の可愛い、大事な男だ。

桂木は田嶋の頭を撫でて、頬にキスした。外で薄っすらと明けかかった白い光が、黄緑のカーテンの色を透かす。

(夜明け……)

これからこういう生活が始まるのか、と、迷惑そうな顔をした田嶋の複雑な心中を他所に、その横で桂木は満面の笑みを浮かべるのだった。

 


        end

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